2018年 09月 12日
ウインド・リバー ~ 閉ざされた心の叫び |
『最後の追跡』など数々の脚本で評価を得たテイラー・シェリダン。
その彼が新たに書き下ろしたシナリオを自ら監督したサスペンスドラマ。
ある事件をきっかけに女性FBI捜査官と地元のハンターが触れ合いながら・・・
この地に追いやられた先住民たちの過酷な現実を知り、そこに漂っていた閉塞感が爆発する悲惨な結末を目にすることになります。
ワイオミング州に位置する先住民族が暮らす深い雪に包まれたウインド・リバー・・・
地元のベテラン白人ハンターであるコリーが先住民の血を引く若い女性の遺体を発見します。
直ちに派遣されたFBIの新人女性捜査官ジェーン。
たったひとりで捜査を始めますが、雪山の厳しい自然環境や不安定な気候。
さらによそ者に心を閉ざす先住民の人たち。
彼女はウインド・リバー一帯に詳しいコリーに助けを求め、その手を借りて捜査を進めることに・・・
おぼつかない足どりながら、立ちはだかる壁に苦闘しつつ、少しずつ事件の真相に迫る新米捜査官ジェーン。
自らも同じような状況で娘を亡くしたつらい過去ゆえに、ジェーンの捜査を懸命に支えようとする猟師コリー。
口には出さないけれど、隠された不穏な何かに挑もうとするふたりの決意がヒリヒリと伝わって来ます。
国の政策により、生きるには厳し過ぎる土地に隔離され、貧困のうちに暮らすネイティブ・アメリカンの人々。
若者たちはここを離れるか、それとも非行に走り刹那に生きるか、選択を迫られます。
そんな辺境の地に何がしか送り込まれる白人たちも、どこか見捨てられた感覚を秘めています。
現状への不満、劣等感、差別意識・・・
すべてに鬱屈した感情が渦まいています。
それらが臨界点に達したとき・・・
羊のようなか弱い女性に矛先が向けられ、すさまじい暴力の連鎖と化してしまいます。
被害者の若い女性はそんな理不尽な暴行からとっさに逃れようと、マイナス30度の雪原を無防備のまま駆け抜けようとしました。
ところがそんな状況では肺が凍りつき、逆流した血液がのどを詰まらせ窒息死してしまうのです。
事件の現場へ立ち入った捜査官たちと、事を起こしたワケありの白人たちの間で激しい銃撃戦が巻き起こり・・・
悲劇的な結末へと雪崩れのように突き進んで行きます。
白銀の世界を舞台に、現代の西部劇を思わせる骨太な展開に思わず息を呑みました。
過酷な状況に追いつめられた人々のやり場のない心の叫びが痛ましい。
アメリカの抱える闇がまたひとつ暴き出され、地味だけれど引き締まったとても見応えのある作品と感じました。
by anculu
| 2018-09-12 14:47
| シネマハウス
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