2018年 04月 08日
シェイプ・オブ・ウォーター ~ 言葉を超えて |
つい先ごろ、今年のアカデミー賞受賞のニュースで沸き返った作品。
アカデミー作品賞ほか4部門でオスカーを獲得、ほかに第74回ベネチア国際映画祭でも金獅子賞に輝きました。
製作・脚本・監督はメキシコ出身のギレルモ・デル・トロ・・・
米ソ冷戦下のアメリカを舞台に、声を出せない女性が不思議な生き物と心を通わせるラブ・ストーリー。
1962年、冷戦下のアメリカ。
政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザは、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物に出会います。
アマゾンで神のように崇拝されていたというその生き物に心を奪われた彼女は、人目を忍んで水槽へ逢いに通います。
幼少期のトラウマで声が出せないイライザでしたが、言葉など不要、いつしか少しずつその生き物と心を通わせるようになります。
一方、その生き物の警備を担当する軍人ストリックランドは、異形のその生き物に虐待を加え、さらに生体解剖を進めようとします。
そのことを知ったイライザは何とかその生き物「彼」を助けようと・・・
50年代ハリウッドのモンスター映画ヒット作「大アマゾンの半魚人」へのオマージュ・・・
そしてそれをベースに、少し風変りだけどとても良質なファンタジーに仕上げられた作品、という印象です。
異物は排斥すべしという風潮は、まるで現在のこの世界を表すかのよう・・・
それを止めようと奮闘するのは、口の利けないイライザ、アフリカ系アメリカ人の清掃員同僚、ゲイの初老の絵描きなど・・・
みんな当時は社会的マイノリティとされる人たちばかり。
そうした人々への共感の視線がとてもやさしい。
一方、この異生物を虐待し蔑むエリート軍人のストリックランド。
豪勢な暮らしを享受しつつ、清掃員やワケありの絵描きをあからさまに見下し・・・
口の利けないことをいいことに、イライザへのセクハラに走ろうとするなど、卑劣極まりない男。
さらにはソ連のスパイとして潜り込んだ生体科学者。
ストリックランドにことごとく反発はするのだけれど、それもこれもこの生物を自国のために利用せんがためばかり・・・
しかし彼らとて、国の権力に使い捨てられる単なるコマでしかなく、やがて地位を奪われ、あげく抹殺される・・・
そんな悲哀も描かれます。
自分たちと異なるものであっても退けようとせず、互いに歩み寄ろうとする主人公たちの姿は、トランピストたちにより分断されてしまった今日のアメリカ社会に対するアンチであるのは明らかです。
昨年のアフリカ系アメリカ人の同性愛を取り上げた「ムーンライト」といい、異形のモノとの恋愛を描いた本作といい、偏狭な保守層がどれほど騒ぎ立てようが、それがすぐれた作品であれば惜しみなく作品賞を与えるハリウッドの気骨に脱帽します。
ゲイの絵描きに「彼」を助ける協力を求めるイライザ・・・
無理だと反対する絵描き・・・
『だって「彼」は人間じゃない!』
それに対してイライザは激しく手話でこう反論するのです。
『もし何もしないなら、私たちも人間じゃない!!』
グサッと胸に突き刺さるセリフでした・・・
by anculu
| 2018-04-08 22:19
| シネマハウス
|
Comments(0)