2017年 11月 05日
ブレードランナー/ファイナルカット ~ いのち短し |
リドリー・スコットの1982年監督作『ブレードランナー』・・・
2007年監督自らが再編集、最新技術のデジタル処理を加えた「ファイナル・カット」版です。
当時、衝撃的な近未来描写でSF映画の金字塔と評された本作品が、美しい映像でよみがえり公開されました。
独特の映像美だけにとどまらず、35年を経た今も色あせない、哲学的要素を秘めた深いドラマ性に感心しました。
高度な知能と強靭な肉体を持った人間にそっくりな外見を持つ人造人間「レプリカント」たちが、人間たちを殺害して植民地惑星から逃亡、地球に戻って来ました。
そのレプリカントの解体処分が決定され、それを抹殺する専門の捜査官<ブレードランナー>デッカードが、追跡調査を始めるのですが・・・
ビデオで見た記憶があり、全体に何となく分かっていたのですが・・・
まったくはじめて見る感じで、あっという間に引きずり込まれてしまった印象です。
お話としてはすごくシンプルなのだけれど、最後まで飽きさせずに見せるところがすごい。
四六時中暗い雨が降りしきり、東洋的な猥雑さに覆われた喧騒と退廃の街角。
今の現実よりずっとテクニカルではあるけれど、けっして明るい未来像なんかではない。
82年当時から見た近未来、2019年はこんな風に捉えられていたのかと驚きます。
レプリカントたちはほかの植民地惑星などで、人間の嫌がる危険な仕事に従事させられています。
反抗すればすぐさま射殺、でなくとも4年の寿命しか与えられず、1匹2匹と虫けらのように使い捨てられます。
人間に勝る仕事もしなくてはならないので、それなりの知識も感情も身につけています。
それなのに幼いときからの経験も記憶もなく、アイデンティティを喪失したその苦悩と哀しみの深さは、一体どれほどのものでしょうか?
その不条理に対する怒りが反乱のきっかけでした。
ハリソン・フォード扮するブレードランナー・デッカードは、レプリカントのその心情をよく知っています。
だからなのか、嫌々引き戻されたこの仕事にあまり熱意は感じられない。
彼らをひとりずつ始末していくのですが、自分の身を守るためやむなく殺してしまった風に感じられます。
クライマックスでたった一人生き残ったレプリカントのリーダーと対峙するのですが、逆に絶体絶命のところまで追いつめられてしまいます。
ここでそれまでのようにわずかなチャンスを逃さず形勢逆転、彼を仕留めれば観客の溜飲も下がり、カタルシスを得られるのでしょうが・・・
そうはならないのです。
レプリカントはデッカードに銃を突きつけたまま、寿命が尽き、絶命してしまうのです。
殺されるより、ここぞという時に想いを果たすこと叶わず、命が尽きてしまう方がよほど非情なのではないか?と思えました。
「お前たち人間が決して見ることのない地獄を俺たちはイヤというほど見て来た。しかしそれも皆、たった4年という時を経て涙のように消えて流れるのだ・・・」
寿命が尽きる前に残したレプリカントの最期のコトバです。
敵役であるはずの彼らが、何だか哀れに感じられる瞬間でした。
何てことない単純極まりないSF冒険活劇に表向きは見えるのだけど・・・
なぜかこの作品は、心に残る名作だと思いました。
by anculu
| 2017-11-05 09:39
| シネマハウス
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