2017年 10月 04日
三度目の殺人 ~ 誰も本当を語らない |
是枝裕和監督の新作、今回は法廷サスペンス。
死刑が確実視されている殺人犯の弁護を引き受けた弁護士が、犯人とのやりとりの中で動機に疑念を感じ、真相を知ろうと奔走します。
重盛は勝利にこだわる弁護士。
裁判で勝つためなら事件の「真実」は二の次、依頼人の理解や共感などは必要ないと言い切るクールな男です。
その彼が殺人容疑のかかったある男の弁護を引き受けます。
男の名は三隅。
30年前に強盗殺人の前科を持つ男で、クビになった工場の社長を殺し金銭を盗み、あげく死体に火を付けたのです。
自供もしているので容疑はほぼ確定、このままいけば死刑は確実と思われていました。
初めは渋々この仕事を受けた重盛でしたが、三隅と顔を合わせるうちに本当にこの男が犯人なのか?と感じ始めます。
接見室で殺人の動機を聞かれても、ぬらりくらりとどこか他人事でからっぽな印象しかない三隅。
次第に重盛は、彼は殺人を犯したのか?もしそうなら一体どんな理由で殺したのか?と疑念を持ち始め・・・
三隅本人や家族、被害者とその周辺を始めから洗い直します。
すると、被害者家族にも隠しておきたい秘密があることや、被害者の娘のおぞましい証言と容疑者との不可解な交流など、意外な供述が次々と現れて・・・
しかも、裁判の最終段階で容疑者が一転して「自分は殺していない」と主張する。
本当に殺したのか?そうではないのか?真相は混沌とします。
が、裁判はそのまま続き、何事もなかったかのように三隅に死刑判決が言い渡されて結審します。
何が本当なのかは結局わからずじまいで・・・
法廷は裁判官、検事、弁護士のいわば利害調整の場であって、真実が追及される場ではない。
それがとても現実的な問題として浮かび上がって来ます。
極端に云えば、検察は容疑者がやっていないとしても犯罪として立証しなければならないし、逆に弁護側はやっていたとしてもやっていないように立証しなければならない。
それが双方の役割であり、仕事だからです。
裁判とはそのせめぎ合いなのです。
法廷では、被告や証人、関係する者たちすべて、そのせめぎ合いに巻き込まれます。
そこでは誰も本当のことを語らない。
自分に有利なことしか話さず、不利なことは隠し通そうとする。
そんな在りようがリアルに描かれます。
本当のことは誰にもわからない。
人は誰も自分以外には決して本当のことを明かさない・・・
実はそれこそが真実なのかも知れません。
芥川龍之介じゃないけれど・・・
世の中とはおしなべて『薮の中』だということでしょう・・・
by anculu
| 2017-10-04 10:50
| シネマハウス
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