2022年 01月 12日
MINAMATA ~ 公害の原点 |
日本の水俣病の存在を世界に知らしめたアメリカの写真家・ユージン・スミス。
1971年から74年までの3年間水俣で暮らし、有害物質に苦しむ人々の日常と、それを訴えようと闘う日々に寄り添った彼の姿を追います。
1971年、かつてアメリカを代表する写真家と称えられたフォトジャーナリストのユージン・スミスでしたが、今はニューヨークで酒に溺れる日々を送っていました。
そんなある日、日本のカメラマンとその通訳を務めるアイリーンがスタジオを訪れます。
アイリーンは、熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって、苦しんでいる人々を撮影してほしいと切り出します。
水俣に赴き彼が見たのは、水銀に冒され歩くことも話すこともできない子どもたちの姿や、激化する抗議運動、その抗議を力で押さえ込もうとする工場側の現実でした。
衝撃を受けながらも冷静にカメラを向け続けるユージンでしたが、やがて自らもその危険に巻き込まれてしまいます。
そんなありのままを写真集「MINAMATA」として世に問う決心をしたユージン。
その写真は彼自身の人生と世界を変えることになるのでした。
若い頃、一時期写真に興味を持ったことがありました。
カメラクラブに所属して、写真教室に参加したり、コンテストに応募したり・・・
一眼レフカメラを何台も首からぶら下げて、いっぱしのカメラマン気取りでいたものです。
しかし、次第に自分にはそんな才能も、持続させる気力もないことを悟り・・・
今はコンパクトカメラ1台で、このブログやほかのSNSへの写真を撮るだけです。
ただ、それでも昔とった杵柄、それなりには考えた写真をと心がけています。
そんなアンクルがいつも自分の基本に置く写真家、それがユージン・スミスでした。
大学の「写真論」の講義で彼のライフ時代のフォトエッセイに触れました。
楽園への歩み、カントリードクター、スペインの村、などなど・・・
そのヒューマンなタッチに魅了されました。
何よりも写真集「MINAMATA」の中の「入浴する智子と母」には写真のすべてがそこにある、とさえ思わされました。
「ピエタ」を彷彿とさせる神々しさの中に、母の慈愛が静かに浮かび上がる傑作です。
これぞ写真と、無意識に自分が写真を撮る時の指標としていることを感じます。
この作品の製作を手がけ、自らもユージン・スミスに扮し主演を務めた、ジョニー・デップ。
何かとお騒がせなジャック・スパロウですが・・・
これまでの彼の派手なイメージを微塵も感じさせない地味な雰囲気の作品です。
そのせいというワケでもないのでしょうが、映画としては凡庸な作品に見えました。
環境問題のさきがけであったがゆえの様々のトラブルや葛藤が、とてもありきたりで表面的なステレオタイプとして描かれているとしか感じとれませんでした。
前評判の割には、とてもスケールの小さな印象で終わったようで残念です。
それよりもこの作品の公開によって、被写体である当事者の方々の意向で、あの「入浴する智子と母」が永らく封印されていたことを知りました。
当事者の方々のプライベートな感情やその事情はとても良く解かるのですが・・・
しかし普遍的な意味合いを持つ芸術的価値が、個別の事情によって制限が加わってしまう実情に、何か釈然としないもどかしさを感じてしまいます。
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by anculu
| 2022-01-12 22:53
| シネマハウス
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