2017年 12月 27日
禅と骨 ~ 型破りのその陰に |
前作「ヨコハマ・メリー」で一躍注目を集めた中村高寛監督が再び、アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれた禅僧ヘンリ・ミトワの生涯に、ドラマやアニメーションを交えて迫る異色のドキュメンタリーです。
戦時中、日系アメリカ人であるがゆえに特高警察に目をつけられ、何かと追い回されます。
それに嫌気がさし、父を訪ねて1940年、単身渡米。
けれどもその意に反し、向こうでも敵性外国人とされ日系人強制収容所で過ごすはめに。
戦後、やっとロサンゼルスで幸せな家庭を築いたと思ったら、1961年突然、今度は家族を置いて単身帰国してしまいます。
時代の波に翻弄されながらも、日本文化をこよなく愛し、茶道・陶芸・文筆にも優れた才能を発揮するヘンリは、家族の意向に反しながらも天龍寺の僧侶となり、京都の多彩な文化人や財界人と交友を深め、禅僧としての悠々自適の晩年を過ごす・・・
はずでした。
ところが、80歳を目前に突如「童謡<赤い靴>をモチーフにした映画をつくりたい!」と云い出し・・・
その夢を追い求めて奔走し、再び家族や周辺の人々を巻き込み、果てしのない迷走を始めたのです。
カメラはそのあたりから回り始めます。
家族と衝突し、ボロクソに云われながら、それでも自分のスタイルを曲げようとしないヘンリ。
何をするにも強引で自分本位、妻や息子、娘からは総スカンを喰っています。
特に、次女静香さんとのやりとりなど凄まじいものがあります。
撮影スタッフとも度々衝突し、積み重ねた取材を拒否したり、あげくに「ぶっ殺す!」などと、僧侶にあるまじき捨て台詞さえ吐く始末。
そうかと思えば、詳細な家系図を丹念につくってみたり・・・
折り鶴を吊るし、逝ってしまった多くの人々を想い、涙ぐんでみたり・・・
どこか憎めない不思議な雰囲気を醸す人でもあります。
そんな彼のありのままの姿を、普通なら撮影しないところにまで踏み込むカメラワーク・・・
それまでの彼の人生の変遷はドラマで補い・・・
こだわり続けた童謡<赤い靴>の悲しいエピソードはアニメーションで・・・
多彩な方向から彼の生涯にスポットを当てます。
結局、彼はその<赤い靴>の映画完成を見ることなく、93歳の生涯を閉じてしまいます。
もちろんカメラはその死の模様さえ克明に記録します。
彼が<赤い靴>にこだわったのは、母を棄ててアメリカに渡ってしまったという自責の念からだったと、次第に明らかになります。
さらにこの作品は、破天荒にさえ見える彼の生涯のあらゆる行動に、実は過去に対しての深い悔悟の念が潜んでいたことを、見事にあぶり出します。
どうひいき目に見ても、彼の行動様式は禅の枯淡の境地とはとても云えないのですが、天龍寺のお坊さんのひとりが彼をこう評しておられたのが、心に引っ掛かりました。
『 まるで風のように吹き込んで来て、いつの間にかそこに居たような人でした。
でも、はじめて彼を見た時、あぁ!この人こそ禅僧そのもの!と思わせる人でした。』
自由闊達、融通無碍・・・
それを体現しているような人だったのでしょうか?・・・
実は恥ずかしながら白状すると、アンクルは禅僧になるのが夢なのです。
そのために、比叡山の禅修行に20年以上も通い研鑽を摘んだのですから・・・
しかし仏縁は訪れてくれませんでした。
ヘンリさんを見ていると、なぜか「負けた」という気になりました。
アンクルには持ち得ない何かを持っておられるのです。
結局、アンクルは禅僧の器にはほど遠いのだ、という想いだけが残りました。
by anculu
| 2017-12-27 10:52
| シネマハウス
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