サンドラの週末 ~ 苦しみに育てられ |
従業員のボーナス支給と引き換えに解雇を言い渡された女性が、自身の解雇撤回のため奔走する姿が描かれます。
体調不良のため休職していたサンドラが職場に復帰しようとした矢先の金曜日、ボーナスを支給するためには一人クビを切らなくてはならないと、解雇を告げられてしまう。
同僚が掛け合ってくれたおかげで、週明けの月曜日に職員たちが投票を行い、自分のボーナスをあきらめる者が過半数に達したら、解雇を回避できるという。
こうして同僚たちを訪ね、説得して回る、サンドラの長い週末が始まった。
解雇撤回を求めて奮闘するヒロインとなればとても勇ましい感じがしますが、主人公サンドラはうつ病あがりですぐに心が崩れてしまう、とても弱い女性です。
メソメソしてばかりで、ことあるたびにクスリに手をのばし、チョッとしたことで落ち込むとすぐに寝込んでしまうありさま。
でも、マイホームを手にしたばかりで、ふたりの子供の母でもある彼女には、仕事を続けなければならない事情があります。
しかし、台所の苦しさは同僚たちだって同じ。
自分より苦しい仲間にボーナスをあきらめてくれと云うのはとても酷なことです。
仲間たちも彼女を何とかしてやりたいと思いつつも、背に腹は変えられず、つらい選択を迫られます。
そんな状況に何度も心がくじけ、自己嫌悪に陥ってしまうサンドラ。
その都度、夫や親友の叱咤激励でそれでも何とか前へ進もうとします。
そんな彼女の訪問に思わず泣き出してしまう同僚も・・・
以前、彼女に仕事の上で助けられたのに、上司に脅されボーナスへと走った自分が許せなかったと、彼女への支持を約束します。
他にも少しずつ彼女を支持する仲間が現れ、わずかながら望みの光も差し込んで来ます。
この作品が、労働問題を告発するだけの社会派ドラマを越えて胸に迫るのは、サンドラの2日あまりの道のりが、我々の人生とも重なり合ってくるからです。
世の中の理不尽さに、折れた心を抱え、立ちすくんでは涙を流し、それでも周りの人たちに支えられ、何とか前を向いて踏ん張って来た、そんな多くの人たちの心を揺さぶるのだと思います。
サンドラは苦しんだ分だけ得がたい自信も手にしました。
泣き虫のダメ女から、自分の足で更なる一歩を踏み出す女性に成長したのです。
おどおどした当初の表情から、何かをふっきったさわやかな表情へと変化する顔つき・・・
どこにでもいる普通の人間が脱皮していく姿を、アカデミー女優の華やかさを封印して、見事に演じ切ったマリオン・コティヤールの存在感が心に残ります。