それでも夜は明ける ~ 人種差別の非道さ |
奴隷制度が廃止される以前のアメリカを舞台に、自由を認められた身でありながら拉致され、南部の綿花農園で12年間も奴隷生活を強いられた黒人男性の実話を映画化した伝記ドラマ。
主人公が体験した差別と暴力に満ちた壮絶な奴隷生活、そしてその中にあっても絶望にうち勝ち、希望を失わないその姿を通して 『人間の尊厳とは何か?』 を問いかける秀作です。
第86回アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。
作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞しました。
監督は 『SHAME (シェイム)』 のスティーヴ・マックィーン・・・
1841年、南北戦争によって奴隷制度が廃止される以前のニューヨーク。
黒人音楽家ソロモン・ノーサップは、自由証明を持つ黒人として家族と共に幸せな生活を送っていた。
だがある日、ふたりの白人の裏切りにより彼は拉致され、“奴隷” としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。
そこでソロモンを待っていたのは、保守的な選民主義の農園主エップスら白人たちによる容赦ない差別と暴力だった。
虐げられながらも、決して “自分が何者であるか” を見失わなかったソロモンだが、いつしか12年の月日が流れていく。
1865年の南北戦争終結で黒人奴隷は解放されました。
しかし実は、それ以前の1808年に海外からの黒人輸入が禁止され、その間すでに北部では自由になっていた黒人を誘拐して、奴隷不足に悩む南部に売り飛ばす犯罪が横行していたそうです。
北部と南部とでは大きく考えが異なる、そんな時代背景がこうした悲劇を生んだのです。
主人公が昨日までは我々と同じように自由な身の上だったという事実は、これまで見たり教えられたりしてはいたものの、どうしても他人事にしか感じられなかった奴隷制の非道さが、まるで自分のことのように迫って来て、人間にはどういう境遇であっても最低限守られるべき尊厳があるのだと、あらためて思い知らされました。
さらに、拉致の被害者と分かれば厄介と見なされて殺されかねないゆえに、ひたすら自由黒人であることや音楽家の素性を隠さねばならない主人公・・・
その踏みにじられたアイデンティティを失うまいとする心情が切なく胸を打ちます。
現在のこの世界にだって、本来持っている素の心や知性を、生き抜くためにとジッと押し隠している人たちは大勢います。
自分の歩んで来た今までを振り返れば、そのことも痛いほどに伝わって来ます。
また、自由な世界ではクラシックな室内楽しか演奏しなかった主人公が、過酷な状況で死んだ農園仲間を弔って、奴隷たちが誰からともなくゴスペルを歌い始めたとき、涙を流しながらその輪に加わる印象的なエピソード・・・
そこには、アメリカの黒人音楽がどのようにして生まれて来たのかが、はっきりと示されているように思いました。
それは、歌唄いの端くれに繋がる自分にとっても、歌とは本来どうあるべきなのか?を、もう一度深く考えさせられるエピソードでした。