あなたへ~自らの道を往け! |
9月に入ってから、この映画と主演の高倉健についてのドキュメンタリーを、TV各局が盛んに放映するのが気になりました。
高倉健はあまりTVなどに出ない人、という印象があったからです。
それなのに撮影風景まで公開して、ちょっといつものプロモーションとは違うので、興味をそそられました。
で、少し前に、近江八幡マイカルシネマで見ました。
結論から云うと、わざわざ劇場まで足を運ぶべきほどの作品ではなかった・・・
それが、正直な感想です。
妻を亡くした男が、「故郷の海に散骨して欲しい・・・」という遺言に従って、自作のキャンピングカーを運転して、富山から長崎の平戸に向かいます。
その道中で色んな人々と出会い、さまざまな人生と遭遇する、典型的なロードムービーです。
老人を主人公にしたロードムービーといえば、1999年製作のデヴィッド・リンチ監督「ストレイト・ストーリー」を思い出します。
しばらく会えなかった病気の兄に会うため、主人公が小さなトラクターで560キロを6週間かけて旅する話です。
その間、家出の少女、キャンプの若者たち、従軍経験のある同年輩の男、仲の悪い双子の兄弟などと出会い、彼は自らの来た道を振り返りつつ、その人たちに珠玉のひと言を残します。
そして再開した兄とは互いに何も語らず、ただ星空を見上げるラストシーンがとても印象的な作品でした。
それに較べると、この映画では行く先々で出会う人たちとのエピソードが、どこか物足りない。
彼らの境遇にリアリティが乏しく、存在感が希薄なのです。
だから、その関わりの中から、主人公の過去や今に到る想いがちっとも浮かび上がって来ない。
何より、主人公の妻(田中裕子)が、なぜ彼を長崎まで向かわせたのか?という理由が、最後まで分かりにくく、感動を呼び起こさないのです。
それは、道中のエピソードに伏線を張りめぐらせて、一気にクライマックスでその理由を明らかにする、そんなプロットになってないからです。
どこか、散漫なシナリオだという気がしました。
例えば、ビートたけしが実は車上荒らし、なんてエピソードは必要ない。
さらに、佐藤浩市が保険金詐欺の失踪者だった、などとウソくさいタネあかしをラストに持ってきたものだから、この映画全体が現実感に乏しい安手のTVドラマになったみたいで、とてももったいない気がしました。
何とかオチをつけたい意図があったのでしょうが、はっきり云って蛇足です。
ケチョンケチョンにけなしましたが、良かったところがふたつありました。
ひとつは、ある意味“きれいごと”の「散骨」という行為が、海を汚し、漁師さんたちが迷惑している事実をキチンと伝えたこと。
何事であっても、必ずそれには相反する矛盾が付きまとうことをわきまえた、大人の誠実さを感じました。
ふたつめは、劇中、主人公の妻を演じる田中裕子が歌う「星めぐりの歌」が、とても良かったこと。
シンプルで素人っぽい曲なのに、何のてらいも飾りっ気もなしに真っすぐフトコロに飛び込んで来る、そんな歌…
いい歌だな、と思いつつエンドロールを見たら、宮沢賢治作詞・作曲とありました。
さすが!と思いました。